香草温泉の話
- 寿秋 横尾
- 5月6日
- 読了時間: 3分
山の中の道なき道を沢に沿って永遠と歩いた先に温泉が湧いている。20代前半くらいの頃からだろうか?そんなシチュエーションに猛烈に憧れていた。だが20代の頃の私は憧れてはいたものの、登山の趣味も無く頭の中でいつかその様な場所があるのか無いのか全くわからないが、その様な場所があるとしたならば、行ってみたいと思うくらいのものであった。
10年程前から登山を初め、未だに初心者だと思っているが、ある程度経験を積んだ後に20代の頃の憧れの地を山仲間と共に目指した。
今から7年前の話である。
場所は白根山中腹、毒水沢沿いに湧く香草温泉(かぐさおんせん)朝8時に天狗山第4駐車場から冒険ははじまった。大量の蓑虫がぶら下がる景色の変化の無い退屈な登山道を1時間半進むと、景色に変化が現れ初める。その先には桟橋が架かり足元に沢が流れる。その沢こそが毒水沢である。立入禁止のロープをくぐり、沢をひたすた遡上する。強酸性の水が流れ不快な虫もいなければ魚も住めない沢である。おまけに傷口に滲みまくる。しかし毒水沢は今まで見てきたどの沢よりも美しい沢だった。

勿論有名な西沢渓谷のエメラルドグリーンも確かに美しいのだが、この毒水沢にはそれとは違った魅力に満ちていた。勿論それだけではない人気の無いこの沢沿いの道には道迷いの危険こそ皆無であるが、直接命を危険に晒すポイントが数多くある。幸いにも先人達によって括り付けられたロープも危険箇所には張られているのだが、そのいずれも完全に信用してはならないものである。時には斜面を登り、沢の上を巻き美しい景色をは裏腹の緊張ばかりが続く道が永遠と続く。

沢の縁を進みほとんど靴を濡らす事無く進めるのだが、この上流で温泉が湧いている事もあり、強酸性の温泉水に浸された岩肌は驚く程によく滑る。
そうしてこの美しい沢を進んでいくと、最大の難関が進路を塞ぐ。駐車場から3時間弱だ。落差は20m前後だろうか?滝の横の斜面にに張られたトラロープを頼りに垂直に斜面を登る

この滝を越えると毒水沢のあちらこちらから湯気が湧いているのが見えてくる。更に不安定足元を確認しながら、時には両手両足で岩場を越えていくとその先に香草温泉があった。

先人たちによって整備された湯船が3つ程あったと思う。

我々はここで湯を沸かし温泉に浸かりながらカップ麺で昼食をとった。一日の疲れを風呂で洗い流してから眠りたい私は山小屋泊は遠慮したいものだが、ここなら何ら問題は無い。出来ればここにテントを貼って一泊したいとさえ思った。多分相当星も綺麗だろう。

今まで色々な場所を訪れたが、間違いなくここが一番好きな場所である。
ただし、熊の目撃情報が後を絶たない場所でもある。
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